座头市恣意的风筝
甲州の宿場外れで功名心に燃えた旅のやくざ清六から、鉄砲で射たれた座頭市は、彼を救い治療費までおいて行った名も知らぬ恩人を追って鰍沢へと旅発った。鰍沢は富士川を挟んで、津向の文吉と竹屋の安五郎が対立していた。文吉は、今年も河原で花火をあげて近在の人々を喜ばせようと、江戸の花火師久兵衛を招き、姉娘お国を迎えにやったのだが、市を救ったのはこのお国であった。鰍沢についてこれを知った市は、お国に厚く礼を言い、自分はしがない按摩として文吉の家に厄介になった。吃安と仇名さる安五郎は、妹お仙が代官の妻、という立場を利用して、文吉の縄張りを狙い、ことある毎に文吉に因縁をつけていた。だが、柔和な文吉は取り合わず、血気にはやる乾分をなだめていた。そんなところに清六が文吉の家に帰って来た。清六は文吉の息子で、親姉妹にさんざんの迷惑をかけて出奔していたのだった、清六は市をみてびっくりした。彼は渡世人の中で名高い座頭市を討って、男をあげようとしたのだ。だが、盲目の市は清六と会っても己を射った人間だとは、知る由もなかった。この清六が、吃安の罠にかかって捕えられた。縄張りをよこすか、清六の命かというかけあいに、市は密かに吃安宅に侵入し無事清六を救出した。吃安は、風のごとく清六を擢っていった按摩が、兇状持で有名な座頭市と知って、代官所に座頭市召捕りの願いを出した。それを知った文吉は、市の身辺を慮って、事情を明かさず早立ちさせた。邪魔者の市が去ったとみるや、吃安一家は、用心棒の天玄を先頭に、文吉宅に殴り込みをかけた。不意討ちをうけた清六、文吉はてもなく倒された。だが、戦勝に酔う吃安宅に疾風のごとく現われたのは、怒りに身をふるわせた座頭市の姿であった。
座头市地狱旅
富士の初日の出を拝もうと旅に出た座頭市は、道中襲ってきた五人のやくざを一瞬の早業で手ひどい傷を負わせた。五人組は傷がいえると市を追って旅に出た。その頃市は、江の島まで船旅としゃれこんでいたが、途中船内でイカサマばくちをしているのを知り、逆にイカサマを利用して多額の金をまきあげた。そこで市は、無頼の将棋好きの浪人十文字糺を知った。江の島に着いた市は、船中にいたイカサマ師の親分江島屋に呼びつけられ、白刃にとりかこまれたが、市の手練の早業で江島屋たちは退散した。が、この騒動で通りがかりの門付け芸人お種の連れていた娘ミキが負傷した。傷は悪化して破傷風となった。責任を感じた市は、破傷風の特効薬である南蛮渡りの生薬を買うために十文字からゆずり受けた十文叩きの妙技で金を集めた。市の買いあたえた生薬でミキの傷は全快した。ところが、ミキを連れて湯治に来た箱根で、市はもみ療治をした縁から、病身の若侍友之進とその妹粂、それに彼らの仲間六平と知りあった。友之進らは父の仇を探して放浪の身の上であった。だがある夜仇の顔を知る唯一の男六平が、ツリ糸のようなもので殺された。そして翌朝市は六平が殺された弁天池に、十文字愛用のウキが浮んでいるのをひろった。市の十文字への疑惑がひろがっていった。これを察したのか十文字もそれ以来市に対して殺気をただよわせるようになった。さらに友之進の証言で仇は将棋好きで得意の絶頂に指を鳴らす妙なくせがあることを知った。もう間違いはなかった。それこそ市と将棋をやるときにみせる十文字のくせなのだ。翌日市と十文字は傷のいえたミキとお種を連れて宿を立った。曲りくねった箱根の山中、頭の中で将棋を指しながら歩く二人は互に対決の機の熟すのをうかがっていた。一瞬二人の白刃が躍った。が倒れたのは十文字だった。追いかけてきた五人組を得意の抜き打ちで倒した市は彼を慕って呼ぶミキの声を背に、一人山道を去っていくのだった。
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